大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和26年(あ)1275号 判決

主文

本件各上告を棄却する。

被告人梁奇容に対し当審における未決勾留日数中三〇日を第一審判決が同判示第四の事実につき言渡した懲役の本刑に算入する。

理由

被告人梁奇容の弁護人岡崎源一及び同鈴木喜太郎並びに被告人斉藤正男の弁護人福田覚太郎の各上告趣意は末尾添付の別紙書面記載の通りである。

弁護人岡崎源一の各上告趣意について。

論旨は、いずれも、事実誤認又は量刑不当の主張であって、刑訴四〇五条に当らない。

弁護人鈴木喜太郎の上告趣意第一点について。

しかし、第一審第九回公判調書によれば、同第三回公判調書における所論証人白石正久の供述記載について適法な証拠調べが行われたものと認められるから、第一審判決がこれを同判示第三の事実を認定する証拠としたのは正当であり、同判決を維持した原判決にも所論のような違法はない。したがって、かかる違法があることを前提とする所論憲法違反の主張は既にこの点において失当である。

同第二点について。

第一審第九回公判において検察官が被告人に対する昭和二四年八月一三日附及び同二五年一月一八日附の各起訴状記載の公訴事実について訂正の申立をしていること、その中には訴因の変更と認めるのを相当とする部分が存すること、これに対し裁判所が取り立てて訴因変更の許可決定を為さず、又その変更を被告人に更めて通知していないことは、すべて所論の通りである。しかし、検察官の右申立は被告人出頭の公判廷において口頭を以って為されたものであり、又、同公判調書によると、被告人側は右申立に対し何らの異議も述べず、裁判所も亦これを却下することなく、直ちに次ぎの訴訟手続に進んでいることが窺われる。かかる場合においては、裁判所が特に訴因変更の許可決定をしていなくても、その許可が為されたものと認めるのが相当であり、又、その訴因変更を更めて被告人に通知することも必要ではないと解すべきである。したがって、第一審判決及びこれを是認した原判決には所論のような違法はなく、論旨憲法違反の主張は既にその前提において採用することが出来ない。

同第三点について。

第一審で、先きに起訴された賍物牙保被告事件及び詐欺恐喝住居侵入強盗傷人傷害被告事件に併合審理された住居侵入強盗傷人被告事件及び賍物牙保同収受同故買被告事件について弁護届が存しないことは所論の通りである。しかし、被告人が或る事件について為した弁護人選任の効力は、被告人において特段の限定を為さない以上、同一の機会に追起訴され且つ一つの事件として併合審理された事件の全部に及ぶものと解するのが相当であって(昭和二六年(あ)第六五四号、同年六月二八日第一小法廷判決参照)、本件でも、先きに起訴せられた前記両被告事件については、被告人と連署した弁護人鈴木喜太郎、同藤原万蔵及び権逸の弁護届が提出されており、被告人において特段の限定をしたことも認められないから、同事件の弁護人たる右三名はすべて、後に起訴せられこれと併合された所論両事件についても亦被告人の為め有効に弁護を為し得たものといわなければならない。そして、記録によれば、右三弁護人は、明らかに同被告事件についても亦被告人の為め弁護人として行動していることが窺われる。したがって、第一審には弁護人なくして審理判決した違法があるということは出来ず、この判決を維持した原判決にも所論のような違法はない。論旨憲法違反の主張はその前提において失当である。

同第四点及び第五点について。

前者は事実誤認の主張、後者は法令違反の主張であって、いずれも刑訴四〇五条に当らない。

同第六点について。

しかし、記録を調べても、第一審公判において、証人白石正久から真実の供述を期待することが出来なかったというような事情は認められない。したがって、第一審判決がその供述を採証したのは固より適法で、その間に経験法則の違背はなく、これと同趣旨に出でた原判決も亦正当である。所論は、憲法違反を主張するけれども、その実質は第一審の自由な心証に基ずく採証を非難するに帰し、刑訴四〇五条による適法な上告理由ということは出来ない。

同第七点について。

所論第一審第九回公判調書は、その記載がやや簡略に過ぎた憾みはあっても、その引用に係る各起訴状の記載と対照しつつこれを読めば、その内容は悉くこれを把握することが出来る。したがって、両公判調書を以って、文意の不明な個所の存する無効なものということは出来ない。論旨憲法違反の主張は既にその前提において排斥を免れない。

同第八点について。

論旨は、量刑不当の主張であって、刑訴四〇五条に当らない。

弁護人福田覚太郎の各上告趣意について。

およそ、判例と相反する判断をしたことを理由として上告の申立をした場合には、上告趣意書にその判例を具体的に示さなければならないことは、刑訴規則二五三条が明らかに規定しているところである。しかるに、論旨第一点は、ただ判例の趣旨を掲げるのみで、それが何時、如何なる事件について為された判決であるかを明示せず、同第二点は漫然と判例違反というだけで、いずれも判例を具体的に示したものとは認められないから、刑訴四〇五条所定の判例違反の主張ということが出来ない。

なお、記録を精査しても、本件につき刑訴四一一条を適用すべき事由は認められない。

よって、同四〇八条刑法二一条により、裁判官全員一致の意見を以って、主文のように判決する。

(裁判長裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例